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最高裁判所第三小法廷 昭和45年(オ)437号 判決 1975年12月23日

主文

理由

上告代理人和智昂、同武井正雄の上告理由第一点及び第四点について

原審の確定した事実の要旨は、次のとおりである。

(一)  被上告人宮崎は、昭和一〇年六月一五日北九州市小倉区大字赤坂字大山二八一番地の三と同所二八五番地の二筆の土地を買受けたが、同年一二月二三日潮風園の建物の保存登記をした際その敷地を同所二八五番地として登記し、その後昭和一〇年一二月二三日から昭和一五年九月九日までの間七回にわたり潮風園の建物と右二筆の土地を共同抵当として抵当権を設定した。

(二)  被上告人宮崎は、被上告会社に対し潮風園の建物及びその敷地を売渡し、昭和一九年二月一六日右建物の敷地を同所二八一番地の三と更正登記をし、更に、右建物の合併登記をし、その敷地を同所二八一番地の三、二八二番地として登記し、同日被上告会社に対し、右建物第一審判決添付(第一目録(一)記載の建物、以下「第一建物」という。)とともにその敷地をほぼ六七五坪五合六勺あるものとして売渡し、第一建物及び同所二八一番地の三と二八五番地の二筆の土地につき右売買を原因として被上告会社に所有権移転登記手続をし、その際右各土地、建物に登記されていた抵当権全部の抹消登記手続をした。

同所二八二番地は、その後同所二八二番地の一、二八二番地の二二その他に分筆されたが、同所二八一番地の三と二八五番地は、いずれも分筆されないまま現在に至つている。

(三)  被上告会社は、第一建物の南側に接して食堂(第一審判決添付第一目録(二)記載の建物、以下「食堂」という。)を増築し、所有権保存登記手続をしたうえ、昭和二〇年一一月一九日上告人に対し第一建物、食堂及び被上告会社が被上告人宮崎から買い受けたと同一範囲の敷地を売渡した。食堂の敷地は、ほぼ同所二八二番地の二二に該当する。

(四)  第一建物及び食堂の敷地の周辺には、二八二番地の八、二八二番地の一二、二八二番地の一六、二八二番地の一五、二八二番地の一八、二八二番地の一九、二八二番地の二〇、二八二番地の九の各地番の土地が存在する。

原審は、以上の事実を認定したうえ、被上告人宮崎が被上告会社に売渡した潮風園の敷地の範囲は、第一審判決添付図面第一基点、A、B、C、D、E、F、G、H、R、ホ、へ、卜、チ、リ、N、O、P、Q、第一基点を順次直線で結んだ範囲内の土地(以下「本件土地」という。)であつて、その南側の当時空地であつた食堂の敷地は売買の目的とはされなかつた、被上告会社から上告人に売渡された土地の範囲もこれと同一である、本件土地は、四囲の占有、所有の状況、地形等から、おおむね同所二八一番地の三、二八五番地、二八二番地の一の各地番に該当するものと推認されるが、右各地番のそれぞれ全部が本件土地内に含まれているとは断定できず、右各地番相互の境界を確定するに足りる証拠はないから、本件土地の地番を確定することができないとして、上告人の同所二八一番地の三及び二八五番地につき被上告会社に対し昭和二〇年一一月一九日売買を原因として所有権移転登記手続を求める請求、同所二八二番地の一及び二八二番地の二二につき、被上告会社に対し同日売買を原因として所有権移転登記手続を求める請求及び被上告会社に代位して被上告人宮崎に対し昭和一九年二月一六日売買を原因として被上告会社に所有権移転登記手続を求める請求を、いずれも、排斥している。

しかしながら、本件記録によれば、被上告人宮崎は第一審における同被上告人本人尋問(第二回)において、食堂敷地を被上告会社に売る約束は口約束ならできていた、それで食堂を建てさせることにきめた旨供述しているのであつて、右事実と、被上告人宮崎は被上告会社に対し第一建物の敷地をほぼ六七五坪五合六勺あるものとして売渡したところ本件土地の面積はこれより相当少ないとの、また、被上告会社はその後第一建物及び食堂を上告人に売渡したのであるが同時に売渡した敷地については別に現地を指示したり測量したりしたことはなかつたとの原審確定事実とを対照し、かつ、被上告人らは原審が本件売買の目的とされたものと認定している築山部分を売買の目的とされなかつたと主張していた本件訴訟の経過を参酌するときは、被上告人宮崎は被上告会社に対し本件土地だけではなく食堂の敷地をも含めて売渡し、被上告会社は更にこれと同一範囲の土地を上告人に売渡したものと認めるのが経験則に照らして相当であり、食堂敷地は被上告人宮崎の所有であり被上告会社の所有でないから売れないと言つた旨の第一審証人植田圭三の証言をたやすく採用し、食堂敷地は右各売買の目的とされなかつたと認定した原判決は、経験則違背、理由不備の違法をおかしたものといわなければならない。

次に、前記(一)ないし(四)の原審確定事実に成立について争いのない甲二〇号証を対照すると、同所二八一番地の三及び二八五番地は、被上告人らにおいて特段の主張立証をしない限り、それぞれ全部本件土地に含まれるものと認定するのが相当であり、また、本件記録によれば、被上告人宮崎は、原審における同被上告人本人尋問において同所二八二番地の一は本件土地に含まれる、同所二八二番地の二二は、ほぼ食堂の敷地にあたり、自然に見たら潮風園の境内になる旨供述しているのであつて、右事実と前記原審確定の事実及び甲二〇号証を対照するときは、食堂敷地は同所二八二番地の二二に該当し、また、同所二八二番地の一の一部も本件土地に含まれ、その含まれる範囲は本件土地から同所二八一番地の三及び二八五番地を除いた部分であると認定するのが相当であり、その具体的範囲につき更に当事者に主張立証を尽くさせ、かつ、各公簿上の面積と甲二〇号証とを対照すること等により、右各地番の土地相互の境界をも碓定しうベきものというベきである。したがつて、本件土地はおおむね同所二八一番地の三、二八五番地、二八二番地の一の地番に該当するものと推認されるが右地番のそれぞれ全部が本件土地内に含まれているとは断定できないのみならず、右各地番相互の境界を確定するに足りる証拠がないとの理由により、本件土地につき所有権移転登記手続を求める上告人の請求を排斥した原判決は、経験則違反、審理不尽、理由不備の違法をおかしたものといわなければならない。

そして、右各違法が原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨は理由があり、原判決はその余の上告理由について判断するまでもなく破棄を免れないところ、本件は更に審理を尽くす必要があるから、これを原審に差し戻すのが相当である。

(裁判長裁判官 高辻正己 裁判官 天野武一 裁判官 坂本吉勝 裁判官 江里口清雄)

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